葬儀後、四十九日が過ぎて忌明けを迎えると、通夜や告別式に参列してくださった方へ香典返しを贈ります。
この香典返しには、掛け紙(のし)をつけて贈ることが基本です。
今回は香典返しを贈る際の「掛け紙(のし)の選び方」「表書きの書き方」について解説します。
目次
香典返しに使う掛け紙(のし)の選び方
掛け紙は、ときに「のし」と呼ばれることも多く、違いが曖昧になっているようです。どちらが正しい呼び方なのでしょうか。
「掛け紙」が「のし」と呼ばれる理由
本来、掛け紙とのしは別ものです。「のし」とは、「熨斗鮑(のしあわび)」を略した呼び方で、掛け紙の右上についている小さな「のし飾り」の中にある黄色い部分をさします。
古来日本では、海産物の「鮑(あわび)」が神饌として用いられてきました。鮑の身を薄く削ぎ、押し伸ばして乾燥させたものが「熨斗鮑」です。
熨斗鮑は、長寿や慶びが長く続くよう願う縁起物で、祝い事の儀礼に欠かせないものとなり、熨斗鮑を紅白の和紙で包んで水引を結んだ「折熨斗(おりのし)」を慶事の贈り物の掛け紙につけるようになりました。
現在では上の写真のように、掛け紙に紙で折られた「のし飾り」を付けたり、掛け紙に印刷されたものがよく使われていますね。
「のし飾り」は、その由来から、紅白の水引を用いた「慶事のお祝い」にしか付けません。
一方弔事では、下記のように掛け紙に「黒と白の水引」「黄と白」の水引を用います。
写真からもわかる通り、弔事の掛け紙には「のし飾り」は付いていません。
「のし飾り」に込められた意味が、お悔やみ事にふさわしくないためです。
しかし通例として、のし飾りの有無に関わらず、弔事・慶事の掛け紙のことを「のし」「のし紙」と呼ぶことが多いです。
まぎらわしいかも知れませんが、厳密にいうと「掛け紙」と「のし・のし飾り」は別物で、弔事には「のし・のし飾り」はつけないと覚えておきましょう。
香典返しの掛け紙の水引は「黒白結び切りの水引」が一般的です。
関西地方では、黄白の結び切りを用いることもあります。
<三浦先生からひとこと> 現在は掛け紙のことを「のし」と呼ぶことが多いのでややこしいのですが、香典や香典返しにはのし飾りは要らないことを知っておいてください。 |
香典返しの水引は「結び切り」「あわじ結び」
香典返しの掛け紙の水引は、色が「白黒」もしくは「双銀」の結び切りを使用します。
関西地方では、「黄白の結び切り」を用いることもあります。
「結び切り」に込められた意味は「結び直せない」、つまり弔事が繰り返されないようにという願いが込められています。
香典返しの掛け紙の表書きは宗教によって違いあり
香典返しの掛け紙の表書きは、宗教によっていろいろと違いがありますので、それぞれの代表的な書き方を紹介します。
仏式の香典返しの表書き
仏式の場合、掛け紙の表書きは水引の上段中央に「志」と書きます。
西日本では「満中陰志」と書く地域が多くあります。
神式のお返しの表書き
香典は仏式のものなので、神式には香典がなく、香典返しもありません。代わりに、神式では「御玉串料」が供えられるので、慣習としてその返礼をします。
仏式では忌明けの四十九日後に香典返しをしますが、神式では忌明けに相当する「五十日祭」後にお返しをします。
表書きは「志」や「偲び草」などが一般的です。
キリスト教式のお返しの表書き
キリスト教にも香典や香典返しはありませんが、仏式の慣習にならい、香典の代わりに「お花料」を供えるのが一般的です。
お返しは、カトリックの場合は故人が亡くなってから30日目の「追悼ミサ」の後、プロテスタントにおいては亡くなってから1カ月目の「召天記念日・記念式」の後が一般的です。
表書きは、「志」や「偲び草」、「感謝」などが一般的です。
香典返しの表書き「志」の持つ意味
「志」という言葉の語源は、心がある方向を目指す「心指す」です。漢字の「士」は進みゆく足の形からきており、「志」は心が目標を目指して進んで行くことを表しています。
心に決めた信念や相手を思う気持ちという意味があります。
遺族がお礼の気持ちを表現するために「志」という言葉を用いるようになったという説があります。
また、志の語源から、遺族が悲しみを乗り越えて前向きに進む気持ちを伝えているという説もあります。
香典返しの「志」と「寸志」は全く別の意味
「志」と似た表書きに「寸志」があります。
字面は似ていても、読み方は「こころざし」と「すんし」で全く違います。
意味合いも「志」と「寸志」では全く異なります。
「志」は弔事に使われますが、「寸志」とは「志というほどでもない一寸だけの気持ち」と謙遜する意味で、目上の人から目下の人へ向けた心ばかりのお礼や心付けの表書きとして使われるものです。目下の人から目上の人に寸志を使うのは失礼となりますし、寸志は紅白水引の袋で渡します。
よって、香典返しに寸志と書くと大変失礼にあたります。
香典返しの掛け紙(のし)への名前の書き方
香典返しの掛け紙に書く名前は、喪主(施主)の苗字で「〇〇」とするのが基本。
フルネーム(関西で多い)や「〇〇家」(関東で多い)とする場合もあります。
嫁いだ娘が喪主をつとめた場合には、娘の新しい苗字で名入れをするのが一般的ですが、香典返しを受け取った方がわかりやすいように、旧姓と新姓で連名にしたり、故人の苗字で「〇〇家」とするケースもあります。
また、故人の娘の婿が喪主になるなど、故人と血縁関係がないため苗字が違う場合には、故人の苗字で「〇〇家」と名入れするのが一般的です。
香典返しの名入れのしかたはケースバイケースですが、喪主以外の親戚などの名前を入れることはほとんどありません。
▶掛け紙(のし)の名入れ・配送伝票(送付状)の差出人名について詳しく
香典返しに名前を書く筆の色は薄墨?濃墨?
文字の色は、忌明け後に贈る香典返しの場合は濃い墨色でよいといわれています。
薄墨の筆文字で書く地域もありますが、薄墨で書く由来は「訃報を聞いて涙で墨がにじみ薄墨色になっている」という意味からきています。
香典返しは、故人が成仏するといわれる四十九日が過ぎて忌明けを迎えた後に贈ります。
よって表書きは、濃い黒墨でよいとされているのが現在の傾向です。ただ、寂しいという気持ちを薄墨で表したいなら、薄墨でも構いません。
香典返しの表書きは、筆文字で書き入れます。
サインペンやボールペンを使用するのは失礼なので注意してください。
最近は筆で書いたように見える「筆風サインペン」が文具店やコンビニで販売されています。
香典返しの掛け紙は名前なしでもよい?
香典返しの掛け紙に名前なしではだめなのかとか思う人もいることでしょう。
香典返しの掛け紙に名前を入れるのは礼儀です。また、葬儀に参列した人なら、自分への香典返しだということが明らかですが、参列はなく香典だけをいただいた人への香典返しで名前がないと、間違いではと不安になることも考えられます。
いずれにしても、香典返しの表書きには名前が必要です。
香典返しの掛け紙(のし)のかけ方【Q&A】
香典返しの掛け紙(のし)には、かけ方にもマナーがあります。
掛け紙のかけ方は、慶事と弔事で違う?
香典返しに掛け紙(のし)は、品物の裏側で左側が上に重なるようにして留めましょう。
ちなみに結婚式や出産祝いなどの慶事は、右側が上になるよう留めます。
香典返しは「内のし」「外のし」どちら?
香典返しにかける掛け紙は、包装紙の内にかける「内のし」と外にかける「外のし」、どちらがよいのでしょう。
香典返しの場合、控えめな印象の「内のし」にする傾向がありますが、どちらが正しいというわけではありません。
手渡しなら「外のし」が適しています。誰から贈られた品物なのかひと目でわかるからです。
香典返しを郵送するなら、「内のし」が適しています。掛け紙の上から配達伝票を直接貼るのは失礼ですし、配送途中に破れる可能性もあるからです。
土地の風習・親族間のルールで「外のし」とされているなら、
- 外のしで香典返しを包装する
- 別の紙袋(ゆうパックや宅配便の袋など)に収める
- その上から送り状を貼る
といった送り方がベストです。
香典返しの包装紙はどんな柄がふさわしいか
香典返しの品物を届ける場合には、上品な包装紙で包むようにしましょう。
その際に使う包装紙は、地味で落ち着いた、控えめな色調のものが好ましいでしょう。
代表的な白、グレー、薄紫のほか、落ち着いた青や緑の淡い色調を選べば間違いありません。
菊などのおとなしい柄物が入っていてもよいとされています。
香典返しを郵送|掛け紙+挨拶状も忘れずに
香典返しを郵送する場合は掛け紙だけでなく、挨拶状(礼状)も準備しましょう。
挨拶状は、品物と同梱して贈るのが一般的です。
特に丁寧に対応したい方へは、香典返しの到着を事前に知らせる「送り状(予告状)」を別便で送付する方法もあります。
しかし手紙を書くことが減っている昨今では、省略することが少なくありません。電話やメールでやりとりをした際、心ばかりの品を配送する旨を伝えるだけでも丁寧な印象を与えるでしょう。
品物が送り状より先に届いてしまわないように注意してください。
挨拶状の例文はこちら
まとめ
四十九日の忌明けに参列者に贈る香典返しの、掛け紙のマナーについて紹介しました。
お悔みごとはいつ自分が当事者になるかわからず、あらかじめ用意できるものでもありません。
しかし、一般常識として頭に入れておけば、自分の身内だけでなく、友人・知人に不幸があったときでも助言をすることができます。
大人の知識としてぜひ、知っておきたいですね。
<三浦先生からひとこと> 香典返しをいただく機会はあっても、贈る側になるのは稀なことかと思います。うろ覚えや勘違いで思わぬ失敗をしないよう、自信がないときは調べて確認するようにしてください。 |